随筆「薄夜」
別離(終わり)
終わりがみえるから熱くなったのではない。われわれは意味があって愛し合った。妻は離婚もあり、その後、男たちとの人生に疲れ切っていた。私は女性たちと別離ばかり繰り返しどの人も大切にできなかった。うまくいかない者同士が偶然にめぐり逢った。それは熱いものではなかった。雪道を歩き疲れ寒さにふるえ人と出会った。そんなものである。
「パパと会えなかったら、帯広で死んでいた」
これは妻が東京でいった言葉である。
私は返す。
「おい、おれは悪運がつよい」
「どうして」
「いままで、こんな暮らしがやれんかった」
「そうなの」
「明美がくれた」
去年は、私が死ぬところだった。救急車のなかで妻に別れを告げた。泣きそうになりながら妻はそばにきた。言葉はなかったが握ってくれた手は私に別離を告げていた。
二人はようやく愛し合うことを手に入れたのに、それに別れの条件が付いていたとは、私だけが知っていたことだろうか。