随筆「薄夜」
波紋
娘から返信メールがきた。なにに拘ろうとしているのか、長い年月会ってもない父親がなぜ気になるのかわからない。
妻のことは挨拶したいとメールにあるが何を意味すのかこれも知らない。gメールの隅に妻の写真がある。それの美しさに興味をもったか、これもわからん。
妻のほうは知った。いまは違うのに困ったわ、と、やっている。写真は、いま妻に聞くと東京でパパが撮影した、と言っている。そうすると五、六年の前のものである。
娘に男がいると自分で書いている。どんな人か知らんが、私に会いに来るとき同行しているかもしれない。縁のつながりとはこうして拡がる。心の和み、これもいいだろう。人の心は多いのがいい。とくに、娘の心はうれしい。
いま台所に作った部屋でこれを書いている。人の心は一つしかない。そんなところにいる私に納得する。文章とは一つの心で書くものだ。
池に投げた小石が波を立てたか、昆虫の波紋か、娘からのメールにゆれる。
おそらく、私を揺らすのはこれだけであろう。